地平線の向こうで恋をした夜

people standing near train station during daytime JINの旅物語

25年以上経った今も、あの旅のことを思い出すたびに胸が熱くなる。

21歳の夏、ヨーロッパの夜行列車の中で、言葉も通じないスペイン人の女の子と恋に落ちた。

今でも当時の記憶が鮮明によみがえる。なんて素敵な時間を過ごしたんだろう。


初めての海外旅行一人旅を計画。行き先はヨーロッパ。英語もろくに話せないのに、予定など何も決めず、ただ2週間のヨーロッパ放浪の旅へ、バックパッカーとして飛び込んだ。

帰りの飛行機のチケットだけが、唯一の「計画」だった。


ロンドンの安宿で、彼女に出会った

旅の玄関口となるロンドン・ヒースロー空港に降り立った。初めての海外、高まる鼓動を抑えながら周囲を見渡す。日本語がない。外国人で溢れてる。まるで映画のワンシーンのようだった。

「地球の歩き方」を片手に最初にやることは安宿探し。当時はもちろんスマホなどなく、Googleマップなんてもちろんない。頼れるのは自分の足だけ。バックパック一つを背負って街を歩いていると、宿泊者を呼び込む同じ年ぐらいの女の子に声をかけられた。

かわいい

小麦色の肌に、太陽を浴びたような黒髪。無邪気に笑うその表情に、一瞬で心を持っていかれた。

彼女と一緒に宿に向かう途上で彼女がスペイン人だと知った。私の英語は片言。それでも笑顔で話しながら、安宿に到着。

時差ボケがひどかった。

「少し休んでから話そう」と思って横になった。

けど、目が覚めたら、彼女はもうそこにはいなかった。


「スペインに行けば、あんな子がいるのか」

悔しかった。いや、正確には違う。あの笑顔がずっと頭から離れなかった。

スペインに行けば、あんなにかわいい子がいるのか。

パリを素通りしてバルセロナへ行くことを決意。パリに行ったこともないのに。。。

思慮深い方だと思っていたのに、我ながらの単細胞っぷりに驚く。

情熱とは心のエンジンだ。気づいたら決意していた。

事前購入してきたユーレールパスを握りしめ、利用開始。計画なんてない。トーマスクックの時刻表を見ながら夜行列車を乗り継いだ。

ただ心の赴くままに、バルセロナを目指した。


バルセロナは、期待を裏切らなかった

バルセロナは最高だった。

街の空気が違った。人の熱量が違った。食事も美味しく、そして確かに、何か求めていたものがそこにはあった。

素敵な出会いにも恵まれた。言葉が通じなくても、笑顔と身振りで何でも伝わった。旅とはこういうものだと、初めて体で理解した。

気づけば帰国の日が迫っていた。2週間の旅行期間、ちょっと短かったなと後悔した。


出発5分前。絶望と光明

帰国便に乗るために、パリ経由でロンドンへ戻らなければならない。夜行列車の時刻に合わせてバルセロナの駅に向かった。

駅についた。

——掲示板に予定の夜行列車がない。違う、出発駅を間違えた。

時計を見た。出発時刻まで残り5分。

どうにもならない。絶望した。21歳、初めての海外、お金の余裕もなく、言葉も満足に通じない。どうすればいいかわからなかった。冷汗が出た。

でも、立ち止まっている時間はなかった。

気持ちを切り替えカウンターに走った。列など関係なかった。猛ダッシュで最前列に割り込み、片言の英語で必死に状況を説明した。

カウンターのおじさんが、少し困った顔をしてから、ゆっくりと頷いた。500ペセタ(当時のスペインの通貨=500円)で翌日の夜行列車に変更してくれた。

助かった。何とかなる。


翌夜の夜行列車で、彼女と出会った

翌日は間違えず、変更した夜行列車に乗り込んだ。

食堂車に入った瞬間、視線が吸い寄せられた。
若いスペイン人の女の子たちの中に、一人だけ、どうしても目を離せない存在がいた。

小麦色の肌、黒く長い髪、そして太陽のような笑顔。

ロンドンで出会ったラテン系の女の子の特徴と重なった。

ためらわず話しかけた。

彼女はスペイン語しか話せず、こちらは片言の英語しか話せない。言葉は全く通じなかった。それでも夜が深まるにつれて、お互いに引き寄せられていった。

景色が流れていく。車窓の外に星が見える。言葉のない会話が続く。

夜行列車の中で、恋に落ちた。


「時よ止まれ」

食堂車が閉まり、寝台車には戻らず2人でデッキで時を過ごした。

列車がパリに着いた。それは、さよならを言わなければならない時間が来たということだった。

貧乏旅行、お金も残る術も持っていない。現実として帰国便を逃すわけにはいかない。せめてあと1日。あと1日あったらパリで一緒に彼女と時間を過ごせるのに。

夜行列車の間違いで、スケジュールも、お金の余力も全くなかった。

時よ止まってくれ。

本気でそう思った。

パリの北駅で後ろ髪をひかれながらの別れ。人生で初めて経験したせつな過ぎる感情だった。


「失敗したっていいじゃないか。きっと道はある」

あの旅を振り返ると、いつも思うことがある。

日本にいたとき、飛び出すを決断しなければ、素敵な経験をすることもなかった。

電車を逃した絶望に流され、行動を起こさなかったら、あの電車には乗れなかった。

そして、列車に乗り遅れていなければ、彼女には出会うこともなかった。

絶望した瞬間が、情熱的な最高の出会いへと変わった。

「もしあの時こうしていたら。」「もしあの時それをしていたら。」

人生とはその連続だ。しかし、行動を起こさなければ何も進まない。そこにあるものは、ただ何もやらなかったという空白が残るだけだ。

失敗したっていいじゃないか。きっと道はある。

「行動を起こしてみよう。」 私のなかで生まれた大きな人生観だ。


素敵な出会いは、人生の宝物

あれから25年以上が経った。

夜行列車の彼女とは、今でもつながっている。

帰国後、直筆のめちゃくちゃなスペイン語で手紙を交換した。往復に数か月かかる手紙交換。辞書を引きながら書いた拙い文章で、関係をつないだ。

今ではSNSでつながり、翻訳機を通じて近況を伝える。便利な世の中になったものだ。

お互いに結婚し、それぞれの世帯を持った。

お互いに歳を重ねたけど、旅で出会った縁は、国境も言葉も時間も超える。あの夜行列車の記憶は、今も自分の中で生き続けている。そしてきっと彼女のなかにも。

素敵な出会いは、人生の宝物になる。

それを教えてくれたのが、21歳の夏の旅だった。


地平線の向こうに

海外旅行が怖い。お金がない。言葉が通じない。もう少し準備が整ってから。。。

そんな不安や口実は、きっと全員が持っている。

あの夏の自分も、同じだった。それでも飛び込んだ。そして人生観が変わった。

地平線の向こうには、まだ見ぬ世界が広がっている。旅に出る理由は、それだけで十分だ。


この旅をきっかけに、以来25カ国を一人旅してきた。その全ての記録をこのブログに残していく。初めての海外を考えているあなたの、背中を押せれば嬉しい。


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